福利厚生と労働基準法の基礎知識|法定福利と法定外福利の違いを初心者向けに解説
企業で働く上で、給与以外に気になるのが「福利厚生」ではないでしょうか?
求人票を見ていると「福利厚生充実」という言葉をよく目にしますが、実際にどのような制度が法律で定められているのか、企業が独自に提供しているものは何なのか、明確に理解している方は意外と少ないものです。
本記事では、福利厚生と労働基準法の関係性について、初心者の方でも理解できるよう基礎から丁寧に解説していきます。
法定福利と法定外福利の違い、それぞれの種類、企業が注意すべき法律上のポイントまで、具体例を交えながらわかりやすくご説明します。
福利厚生と労働基準法の関係性
福利厚生を理解する上で、まず押さえておきたいのが労働基準法との関係性です。
労働基準法は労働者の権利を保護するための基本的な法律であり、福利厚生制度の土台となっています。
福利厚生の定義と労働基準法がどのように関わっているのかを詳しく見ていきましょう。
福利厚生とは?
福利厚生とは、企業が従業員とその家族に対して、給与や賞与以外に提供する報酬やサービスの総称です。
従業員の生活の質を向上させ、働きやすい環境を整えることで、モチベーションの向上や優秀な人材の確保・定着を図ることを目的としています。
福利厚生は大きく分けて「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類に分類されます。
法定福利厚生は法律によって企業に実施が義務付けられているもので、法定外福利厚生は企業が独自に設計・導入できる任意の制度です。
企業にとって福利厚生は単なるコストではなく、従業員満足度を高め、離職率を下げ、結果として企業の生産性向上につながる重要な投資といえます。
近年では、働き方改革の推進や人材獲得競争の激化により、福利厚生の充実度が企業選びの重要な判断基準となっています。
労働基準法が定める企業の義務
労働基準法は、1947年に制定された日本の労働法の中核をなす法律です。
この法律は、労働条件の最低基準を定め、労働者の権利を保護することを目的としています。
福利厚生と労働基準法の関係では、主に以下の点が重要です。
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があると定めています。
この就業規則には、賃金に関する事項のほか、退職に関する事項や安全衛生に関する事項などを記載する必要があり、福利厚生に関する制度もここに含まれます。
また、労働基準法第24条では賃金の支払い方法について定めており、賃金は通貨で直接労働者に全額を支払わなければならないという原則があります。
ただし、法令または労働協約に別段の定めがある場合は例外が認められており、社会保険料などの法定福利厚生費用は給与から控除することが可能です。
さらに、労働安全衛生法や社会保険関連法など、労働基準法以外の法律も福利厚生制度に大きく関わっています。
これらの法律を遵守することが、企業の社会的責任として求められています。
法定福利厚生の種類と内容
法定福利厚生は、法律によって企業に実施が義務付けられている福利厚生制度です。
すべての企業が遵守しなければならず、違反した場合は罰則が科されることもあります。
ここでは、主要な法定福利厚生について、その内容と企業・従業員の負担割合を詳しく解説します。
社会保険制度の基本
社会保険は、病気や怪我、老齢、失業などのリスクに対して、社会全体で支え合う仕組みです。
企業は従業員を雇用する際、該当する社会保険への加入手続きを行い、保険料の一部または全部を負担する義務があります。
日本の社会保険制度は、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の4つが主要な柱となっています。
これらは労働者の生活を守るセーフティネットとして機能しており、万が一の事態に備えた重要な制度です。
社会保険料は、一部の保険を除いて企業と従業員が折半して負担します。
企業にとっては人件費の大きな部分を占める費用ですが、法律で定められた義務であり、従業員の安心して働ける環境を整える上で不可欠な投資といえます。
各種社会保険の詳細と負担割合
法定福利厚生として企業が加入・負担しなければならない主要な社会保険について、以下の表にまとめました。
| 保険の種類 | 対象者 | 主な給付内容 | 保険料負担割合 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 常時雇用される従業員 | 医療費の補助、傷病手当金、出産手当金など | 企業・従業員で折半(各約50%) |
| 厚生年金保険 | 常時雇用される従業員 | 老齢年金、障害年金、遺族年金 | 企業・従業員で折半(各約50%) |
| 雇用保険 | 週20時間以上勤務する労働者 | 失業給付、育児休業給付、教育訓練給付など | 企業:約0.95%、従業員:約0.6%(業種により異なる) |
| 労災保険 | すべての労働者(パート・アルバイト含む) | 業務上の怪我・疾病の治療費、休業補償など | 企業が全額負担(業種により料率が異なる) |
| 介護保険 | 40歳以上の従業員 | 介護サービスの利用料補助 | 企業・従業員で折半(健康保険料に上乗せ) |
健康保険は、従業員やその家族が病気や怪我をした場合の医療費を補助する制度です。
企業は従業員の健康保険料の約半分を負担し、残りは従業員の給与から控除します。
保険料率は加入する健康保険組合や協会けんぽによって異なりますが、2026年現在、全国平均で約10%前後となっています。
厚生年金保険は、老後の生活を支える年金制度の一部です。
国民年金(基礎年金)に上乗せされる形で支給され、企業と従業員がそれぞれ約18.3%(2026年現在)の保険料を折半負担します。
従業員の標準報酬月額に基づいて保険料が算定されます。
雇用保険は、失業した際の生活を支える給付や、育児休業中の給付などを提供する制度です。
週20時間以上働く労働者が対象となり、保険料は企業と従業員で負担しますが、企業側の負担割合がやや高く設定されています。
労災保険は、業務中や通勤中の事故による怪我や疾病に対して補償を行う制度です。
保険料は企業が全額負担し、従業員の負担はありません。業種によって危険度が異なるため、保険料率は業種ごとに設定されています。
法定福利厚生に関する注意点
企業が法定福利厚生を適切に実施するためには、いくつかの重要な注意点があります。
まず、従業員の雇用形態や勤務時間によって加入義務が発生する保険が異なるため、正確な判断が必要です。
パートタイマーやアルバイトであっても、一定の条件を満たせば社会保険の加入対象となります。
2022年10月からは、従業員数101人以上の企業では、週20時間以上働き、月額賃金が8.8万円以上などの条件を満たすパート・アルバイトも厚生年金保険と健康保険の加入対象となりました。
この基準は段階的に拡大されており、2024年10月からは51人以上の企業にも適用されています。
また、社会保険料の算定には「標準報酬月額」という概念が使われます。
これは従業員の給与を一定の等級に当てはめたもので、保険料計算の基礎となります。
企業は従業員の給与変動に応じて、適切に標準報酬月額の変更手続きを行う必要があります。
加入手続きや保険料の納付を怠ると、企業には罰則が科されることがあります。
労働基準監督署や年金事務所による調査も定期的に実施されているため、法令遵守は企業の重要な責務です。
法定外福利厚生の種類と導入メリット
法定外福利厚生は、企業が独自に設計・導入できる任意の福利厚生制度です。
法律で義務付けられているわけではありませんが、従業員の満足度向上や優秀な人材の確保において重要な役割を果たします。
ここでは、代表的な法定外福利厚生の種類と、企業が導入することで得られるメリットについて解説します。
代表的な法定外福利厚生の種類
法定外福利厚生には多種多様な制度がありますが、大きく分けると「住宅関連」「食事関連」「健康・医療関連」「慶弔・災害関連」「育児・介護支援」「自己啓発支援」「レクリエーション」などのカテゴリーに分類できます。
住宅関連では、社宅や寮の提供、住宅手当の支給、住宅ローンの利子補給などがあります。
特に都市部では住居費の負担が大きいため、従業員にとって非常に魅力的な制度です。
企業によっては社員寮を完備し、新入社員や転勤者の生活基盤を支える仕組みを整えているところもあります。
食事関連では、社員食堂の運営、食事手当の支給、弁当の提供などが代表的です。
従業員の健康管理や昼食時間のコミュニケーション促進にもつながり、多くの企業で導入されています。
健康・医療関連では、定期健康診断の充実(法定項目以上の検査)、人間ドックの補助、スポーツジムの利用補助、メンタルヘルスケアサービスなどがあります。
従業員の健康維持は企業の生産性に直結するため、予防医療の観点からも重要な投資といえます。
慶弔・災害関連では、結婚祝い金、出産祝い金、弔慰金、災害見舞金などの支給が一般的です。
人生の節目や困難な状況において企業が従業員を支援することで、帰属意識の向上につながります。
育児・介護支援では、法定基準を超える育児休業制度、ベビーシッター補助、介護休暇の拡充、時短勤務制度などがあります。
ワークライフバランスの重視が進む現代において、特に注目される福利厚生です。
企業が導入するメリット
法定外福利厚生を充実させることは、企業にとって多くのメリットをもたらします。
第一に、優秀な人材の獲得と定着に大きく貢献します。
求職者が企業を選ぶ際、給与だけでなく福利厚生の充実度を重視する傾向が強まっており、魅力的な制度は採用活動での競争力を高めます。
第二に、従業員のモチベーション向上と生産性の向上が期待できます。
従業員が「会社に大切にされている」と感じることで、仕事への意欲が高まり、結果として業務の質や効率が向上します。
離職率の低下にもつながり、採用・育成コストの削減にも寄与します。
第三に、企業イメージの向上です。
福利厚生が充実している企業は「従業員を大切にする良い会社」として評価され、ブランド価値が高まります。これは顧客や取引先からの信頼獲得にもつながります。
第四に、税制上のメリットがあります。
一定の要件を満たす福利厚生費は、企業の経費として損金算入が認められます。
単純に給与を増額するよりも、福利厚生として提供する方が税務上有利になる場合があります。
ただし、すべての従業員に平等に利用機会があることなど、一定の条件を満たす必要があります。
導入時の注意点と選び方
法定外福利厚生を導入する際には、いくつかの注意点があります。
まず、従業員のニーズを正確に把握することが重要です。
アンケート調査やヒアリングを通じて、従業員が本当に求めている制度を見極める必要があります。
年齢層や家族構成によってニーズは異なるため、多様な選択肢を用意することが理想的です。
次に、費用対効果を慎重に検討する必要があります。
福利厚生への投資は長期的な視点で評価すべきですが、企業の財務状況に見合った範囲で計画的に導入することが大切です。
利用率が低い制度は見直し、より効果的な制度に予算を振り向けることも検討しましょう。
また、公平性の確保も重要なポイントです。
特定の従業員だけが恩恵を受ける制度は、不公平感を生み、かえってモチベーションの低下を招く可能性があります。
正社員だけでなく、契約社員やパートタイマーも利用できる制度設計が望ましいといえます。
税務上の取り扱いについても注意が必要です。
福利厚生として認められるためには、業務に必要であること、すべての従業員に平等に提供されること、社会通念上妥当な金額であることなどの要件があります。
特定の従業員への特別な給付と見なされると、給与所得として課税される可能性があるため、税理士など専門家に相談することをおすすめします。
福利厚生制度の適切な運用と法令遵守
福利厚生制度を導入しただけでは十分ではありません。
適切に運用し、関連する法令を遵守することが、企業の信頼性を保ち、従業員の権利を守るために不可欠です。
ここでは、福利厚生制度の運用における重要なポイントと、企業が注意すべき法的リスクについて解説します。
就業規則への記載と周知義務
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があると定めています。
福利厚生に関する制度も、就業規則または別規程として明文化し、従業員に周知する必要があります。
就業規則に記載すべき事項は、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」に分かれます。
福利厚生は相対的必要記載事項に該当し、制度を設ける場合には記載しなければなりません。
具体的には、退職手当の制度、臨時の賃金・最低賃金額、食費・作業用品などの負担、安全衛生、職業訓練、災害補償・業務外の傷病扶助、表彰・制裁などが含まれます。
就業規則は単に作成するだけでなく、従業員に周知することが法律で義務付けられています。
周知方法としては、事業場の見やすい場所への掲示・備え付け、書面での交付、電子データでの提供などがあります。
社内イントラネットに掲載し、いつでも閲覧できる環境を整えることが現代的な対応といえます。
就業規則の変更時には、従業員代表の意見を聴く手続きが必要です。
特に従業員に不利益な変更を行う場合には、合理的な理由と適切な手続きが求められます。
福利厚生制度を縮小・廃止する場合には、慎重な対応が必要です。
法令遵守のチェックポイント
企業が福利厚生制度を運用する上で、法令遵守のために確認すべきポイントは多岐にわたります。
まず、社会保険の加入漏れがないか定期的にチェックすることが重要です。
特に試用期間中の従業員やパート・アルバイトの加入条件については、法改正により基準が変更されることもあるため、最新の情報を把握しておく必要があります。
保険料の計算と納付についても正確性が求められます。
標準報酬月額の決定や変更手続き、賞与からの保険料控除など、複雑な計算が必要となるため、給与計算システムの適切な設定と定期的な確認が不可欠です。
労働時間や休暇に関する法令遵守も福利厚生と密接に関連します。
年次有給休暇は労働基準法で定められた権利であり、一定の条件を満たす従業員には最低年5日の取得義務があります。
また、育児・介護休業法に基づく休業制度も法定福利の一部として適切に運用する必要があります。
安全衛生に関する法令も重要です。労働安全衛生法では、従業員の健康診断実施が義務付けられており、その結果に基づく健康管理も企業の責務です。
長時間労働者への医師による面接指導、ストレスチェック制度(50人以上の事業場)なども法律で定められています。
個人情報保護法の観点からも注意が必要です。
福利厚生の利用には従業員の個人情報や家族情報が必要となる場合が多いため、適切な情報管理と利用目的の明示、同意取得が求められます。
福利厚生と税務の関係
福利厚生費の税務上の取り扱いは、企業にとって重要な関心事です。
適切に処理すれば企業の経費として損金算入できますが、不適切な処理は税務調査で指摘され、追徴課税を受ける可能性があります。
福利厚生費として認められるためには、「全従業員が対象であること」「社会通念上妥当な金額であること」「業務に関連性があること」という要件を満たす必要があります。
特定の役員や従業員だけが対象の場合、給与として課税される可能性が高くなります。
例えば、社員旅行は一定の条件を満たせば福利厚生費として処理できます。
具体的には、旅行期間が4泊5日以内(海外の場合は現地滞在日数)、従業員の50%以上が参加、社会通念上妥当な金額(一般的に10万円程度まで)などの要件があります。
これらを満たさない場合、参加者への給与として扱われ、源泉所得税の課税対象となります。
食事の提供についても、従業員が食事代の50%以上を負担し、企業負担額が月額3,500円以下であれば、福利厚生費として処理できます。
これを超える場合は給与として課税されます。
住宅手当や家賃補助は、一般的には給与として課税されます。
ただし、社宅として提供し、従業員から一定額以上の賃貸料相当額を徴収する場合は、給与課税されないケースもあります。
このように税務上の取り扱いは複雑であり、判断に迷う場合は税理士などの専門家に相談することが賢明です。
まとめ
福利厚生制度を適切に運用するためには、就業規則への記載と周知、関連法令の遵守、税務上の適切な処理が不可欠です。
特に、社会保険の加入条件は法改正により変更されることもあるため、最新の情報を常に把握し、適切に対応することが求められます。
本記事を参考に、福利厚生と労働基準法の基礎知識を深め、自社の制度を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
不明な点や専門的な判断が必要な場合は、社会保険労務士や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
