雇入れ時健康診断とは?対象者・11項目・実施時期・費用負担をまとめて解説
新しく従業員を雇用する際、企業には「雇入れ時健康診断」の実施義務があります。
しかし、入社前健診との違いや、パート・アルバイトが対象になるのか、過去の健診結果で代用できるのかなど、実務上の疑問点は少なくありません。
雇入れ時健康診断を適切に実施しないと、労働安全衛生法違反となり、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。
この記事では、雇入れ時健康診断の法的位置づけから11項目の検査内容、省略できる条件、費用負担の考え方まで、人事担当者が押さえるべき実務ポイントをまとめて解説します。
雇入れ時健康診断とは?実施が必要なケースを確認

雇入れ時健康診断は、労働安全衛生規則第43条に基づいて実施が義務付けられた法定健康診断です。
企業が常時使用する労働者を雇用する際に、必ず実施しなければなりません。
この健康診断の目的は、入社時点での健康状態を把握し、業務に支障がないか確認することです。
また、入社後の定期健康診断と比較することで、業務による健康への影響を評価する基準にもなります。
法定健診としての位置づけと実施タイミング
雇入れ時健康診断は、労働安全衛生法に基づく法定健康診断の一つです。
企業は労働者を雇い入れる際に、必ずこの健診を実施しなければなりません。
実施タイミングは、雇入れの直前または直後が基本です。
実務上は、入社日の前後3ヶ月以内に実施された健康診断であれば、その結果を活用できます。ただし、この代用については後述する条件を満たす必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的根拠 | 労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第43条 |
| 実施時期 | 雇入れの直前または直後(入社日前後3ヶ月以内の健診で代用可) |
| 実施義務者 | 事業者(企業) |
| 対象者 | 常時使用する労働者 |
「入社前健診」や「定期健診」との違い
雇入れ時健康診断と混同されやすいのが「入社前健康診断」と「定期健康診断」です。
それぞれ目的と法的位置づけが異なります。
入社前健康診断は、採用選考の一環として企業が任意で実施するものです。
法的義務はなく、検査項目も企業が自由に設定できます。一方、雇入れ時健康診断は法定健康診断であり、労働安全衛生規則で定められた11項目を実施する必要があります。
定期健康診断は、常時使用する労働者に対して年1回実施が義務付けられている法定健診です。
雇入れ時健康診断が「入社時の健康状態の把握」を目的とするのに対し、定期健康診断は「継続的な健康管理」を目的としています。
| 健診の種類 | 法的義務 | 実施時期 | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 入社前健康診断 | なし(任意) | 採用選考時 | 採用可否の判断材料 |
| 雇入れ時健康診断 | あり(法定) | 雇入れ時 | 入社時の健康状態把握 |
| 定期健康診断 | あり(法定) | 年1回 | 継続的な健康管理 |
対象者の範囲とは?パート・アルバイトは含まれる?
雇入れ時健康診断の対象者は「常時使用する労働者」です。
正社員だけでなく、一定の条件を満たすパートやアルバイトも対象に含まれます。
常時使用する労働者とは、以下の両方の条件を満たす者を指します。
- 期間の定めのない労働契約、または1年以上の有期労働契約を締結している
- 1週間の労働時間が、正社員の所定労働時間の4分の3以上である
例えば、週30時間勤務のパート従業員で、正社員の所定労働時間が週40時間の場合、30時間÷40時間=75%となり、4分の3以上の条件を満たすため対象となります。
中途採用者も当然対象です。
雇用形態にかかわらず、上記の条件を満たす労働者を雇い入れる際は、必ず雇入れ時健康診断を実施する必要があります。
検査項目11項目の内容

雇入れ時健康診断では、労働安全衛生規則第43条で定められた11項目の検査を実施します。
これらの項目は、労働者の基本的な健康状態を把握するために必要な検査です。
各項目には明確な目的があり、業務遂行能力や健康リスクの評価に役立ちます。
以下、11項目それぞれの内容と意義を解説します。
既往歴及び業務歴の調査
既往歴とは過去にかかった病気や手術歴のことで、業務歴は過去に従事した仕事の内容を指します。
医師による問診または質問票への記入により調査します。
この調査により、業務上配慮が必要な健康状態や、特定の作業環境で健康リスクが高まる可能性を事前に把握できます。
自覚症状及び他覚症状の有無の検査
自覚症状は本人が感じている体調不良や痛みなど、他覚症状は医師が観察できる客観的な症状を指します。問診と視診により確認します。
現在の健康状態を総合的に評価し、精密検査の必要性を判断する重要な項目です。
身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
身体測定と感覚器の基本的な機能検査です。視力は裸眼または矯正視力を測定し、聴力は1,000Hzと4,000Hzの音域で検査します。
これらの数値は、業務適性の判断や、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病リスクの評価に活用されます。
腹囲の測定により、内臓脂肪の蓄積状態を把握できます。
胸部エックス線検査及び喀痰検査
胸部エックス線検査は、肺や心臓の状態を画像で確認する検査です。
結核や肺がん、心臓の肥大などを発見できます。
喀痰検査は、胸部エックス線検査で異常が疑われる場合や、結核の疑いがある場合に実施されます。
通常の雇入れ時健康診断では、喀痰検査まで必要となるケースは多くありません。
血圧の測定
血圧測定は、高血圧や低血圧の有無を確認する基本的な検査です。
収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)を測定します。
高血圧は脳卒中や心臓病のリスク要因となるため、早期発見と適切な管理が重要です。
貧血検査(血色素量、赤血球数)
血液中の赤血球数とヘモグロビン(血色素量)を測定し、貧血の有無を確認します。
貧血があると、疲労感や集中力低下などの症状が現れ、業務効率に影響する可能性があります。
肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
肝臓の機能を評価する検査です。GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTPの3つの酵素値を測定します。
これらの数値が高い場合、肝炎や脂肪肝、アルコール性肝障害などの可能性があります。
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、自覚症状が出にくいため、血液検査による早期発見が重要です。
血中脂質検査(LDL・HDLコレステロール、TG)
血液中の脂質を測定する検査です。LDLコレステロール(悪玉)、HDLコレステロール(善玉)、中性脂肪(トリグリセライド、TG)を測定します。
これらの値の異常は、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞のリスク要因となります。
生活習慣病の予防において重要な指標です。
血糖検査
血液中のブドウ糖濃度を測定し、糖尿病の有無やリスクを評価します。空腹時血糖値またはHbA1c(ヘモグロビンA1c)を測定します。
糖尿病は放置すると、網膜症や腎症、神経障害などの合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見が重要です。
尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
尿中の糖と蛋白の有無を調べる検査です。
尿糖が陽性の場合は糖尿病、尿蛋白が陽性の場合は腎臓病の可能性があります。
簡便で非侵襲的な検査でありながら、重要な健康情報が得られるため、健康診断の基本項目として位置づけられています。
心電図検査
心臓の電気的活動を記録し、不整脈や心筋梗塞、心肥大などの異常を発見する検査です。
安静時の12誘導心電図を測定します。
心臓疾患は突然死のリスクもあるため、定期的な心電図検査により早期発見と適切な治療につなげることが重要です。
雇い入れ時健康診断は省略できる?

雇入れ時健康診断は原則として省略できませんが、一定の条件を満たす場合に限り、過去の健康診断結果で代用できます。
ただし、安易な省略は法令違反となる可能性があるため、慎重な判断が必要です。
省略すると問題になりやすいパターン
雇入れ時健康診断を実施せず、労働基準監督署から是正勧告を受けるケースがあります。
特に以下のような状況では問題になりやすいため注意が必要です。
- 入社前健康診断を実施したため雇入れ時健診は不要と判断したが、検査項目が11項目を満たしていなかった
- 3ヶ月以上前の健康診断結果を使用し、法定要件を満たしていなかった
- 労働者から健康診断書を受け取ったが、医師の診断がない簡易的な検査結果だった
- パートやアルバイトは対象外と誤解し、常時使用する労働者に該当する従業員の健診を実施しなかった
これらのケースでは、労働安全衛生法違反として是正勧告の対象となります。
企業は法定健康診断の実施義務を正しく理解し、適切に対応する必要があります。
過去の健診結果で代用できる条件
労働安全衛生規則第43条ただし書きにより、一定の条件を満たせば過去の健康診断結果で代用できます。
代用が認められるのは、雇入れの日の3ヶ月以内に実施された健康診断の結果を、労働者が企業に提出した場合です。
ただし、提出された健康診断書が以下の条件を満たしている必要があります。
| 条件 | 詳細 |
|---|---|
| 実施時期 | 雇入れの日から遡って3ヶ月以内に実施されたもの |
| 検査項目 | 労働安全衛生規則第43条で定める11項目を全て含むこと |
| 医師の診断 | 医師による診断結果が記載されていること |
| 書面の提出 | 労働者本人から企業へ健康診断書が提出されること |
これらの条件を全て満たす場合に限り、改めて雇入れ時健康診断を実施する必要はありません。
ただし、一部の項目が欠けている場合は、不足項目のみを追加で実施する必要があります。
代用の判断ポイント
過去の健康診断結果を代用する際は、以下のポイントを確認してください。
- 健康診断の実施日が雇入れ日の3ヶ月以内かどうか確認する
- 健康診断書に11項目全ての検査結果が記載されているか確認する
- 医師の診断所見が明記されているか確認する
- 保険適用外の健康診断であるか確認する(保険診療の検査結果は原則として代用不可)
- 不足項目がある場合は、追加で個別受診を実施する
特に注意が必要なのは、入社前健康診断として企業が独自に実施した健診です。
検査項目が11項目を満たしていない場合は、雇入れ時健康診断としては認められません。
また、労働者から健康診断書の提出を受けた場合でも、企業は受診勧奨を行い、不足項目がないか確認する責任があります。
費用負担については、法定健康診断である雇入れ時健診は企業負担が原則ですが、代用する場合の扱いは企業ごとに判断が分かれます。
領収書の提出を求め、費用を補助する企業もあります。
まとめ

雇入れ時健康診断は、労働安全衛生規則で定められた法定健康診断であり、常時使用する労働者を雇用する際に必ず実施する必要があります。
パートやアルバイトも一定の条件を満たせば対象となるため、雇用形態にかかわらず適切に実施しましょう。
11項目の検査は労働者の健康状態を把握する重要な指標です。
過去の健診結果で代用する場合は、3ヶ月以内の実施と11項目全ての検査が条件となります。
法令を正しく理解し、適切な健康診断を実施することが企業の責務です。
