会社の福利厚生と労働組合は何が違う?団体交渉で増える待遇・増えない待遇
会社の待遇改善を考えるとき、「福利厚生」と「労働組合」という言葉を耳にしますが、両者の違いを正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
福利厚生は会社が提供する制度であり、労働組合は労働者が団結して待遇改善を求める組織という、根本的な違いがあります。
この違いを理解することで、どのような待遇が団体交渉で改善できるのか、逆にどのような待遇は対象外なのかが見えてきます。
福利厚生と労働組合は何が違う?役割と管轄範囲を比較

福利厚生と労働組合は、どちらも労働者の待遇に関わるものですが、その性質は大きく異なります。
この違いを理解するには、「誰が提供するのか」「何を原資とするのか」「どうやって変更するのか」「誰が対象なのか」という4つの軸で整理すると分かりやすくなります。
違いが一瞬で分かる比較軸
福利厚生と労働組合の違いを、4つの比較軸で整理しました。
| 比較軸 | 福利厚生 | 労働組合 |
|---|---|---|
| 主体 | 会社(経営層) | 労働者(組合員) |
| 原資 | 会社の経費 | 組合費 |
| 変更手段 | 会社の判断 | 団体交渉 |
| 対象 | 全従業員または条件該当者 | 組合員のみ |
主体
福利厚生の主体は会社です。経営層が人材確保や採用活動の一環として、どのような制度を提供するかを決定します。
一方、労働組合の主体は労働者自身です。
組合員が団結して組合活動を行い、会社に対して労働条件の改善を求めます。
原資
福利厚生は会社の経費から支出されます。住宅補助や確定拠出型企業年金、レジャー施設の利用補助などは、すべて会社が費用を負担しています。
労働組合の活動は組合費によって賄われます。組合員から集めた組合費を使って、団体交渉の準備や組合員向けの支援を行います。
変更手段
福利厚生の内容を変更する権限は会社にあります。カフェテリアプランの導入や退職金制度の見直しは、会社の判断で実施されます。
労働組合は団体交渉を通じて労働条件の改善を求めます。賃金や労働時間などの労働条件は、団体交渉によって変更を要求できます。
対象
福利厚生は基本的に全従業員が対象です。正規従業員だけでなく、同一労働同一賃金の考え方から非正規従業員にも適用される制度が増えています。
労働組合の支援は組合員のみが対象です。企業内労働組合の場合、組合に加入していない従業員は組合の支援を受けられません。
会社の「福利厚生」とは

福利厚生とは、会社が従業員に対して賃金以外に提供する制度やサービスの総称です。
法律で定められた法定福利厚生と、会社が独自に提供する法定外福利厚生の2種類があります。法定福利厚生には健康保険や厚生年金などが含まれ、法定外福利厚生には住宅補助や育児支援、介護支援、慶弔給付金、保養所の利用などがあります。
福利厚生の目的は主に3つあります。
- 人材確保:優秀な人材を採用するための競争力を高める
- 従業員満足度の向上:ワークライフバランスやダイバーシティを推進する
- 定着率の改善:長期的に働きやすい環境を整備する
近年は働き方改革の影響で、在宅勤務制度や育児支援の充実など、多様な働き方を支える福利厚生が重視されています。
労働組合とは

労働組合とは、労働者が団結して労働条件の維持・改善を目指す組織です。
日本では企業内労働組合が一般的で、同じ会社で働く労働者が組合を結成し、会社と対等な立場で団体交渉を行います。労働組合法によって、団結権・団体交渉権・団体行動権の労働三権が保障されています。
労働組合の主な活動は以下の通りです。
- 団体交渉:賃金や労働時間などの労働条件について会社と交渉する
- 労働協約の締結:交渉で合意した内容を書面で取り決める
- 組合員の権利擁護:不当な扱いを受けた組合員を支援する
- 組合員向けサービス:共済制度や提携割引などを提供する
労働組合は雇用形態に関わらず、正規従業員も非正規従業員も加入できます。長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現など、全ての労働者の権利を守るための活動を行っています。
団体交渉で増える・改善されやすい待遇

団体交渉では、労働条件に関わる事項について改善を求めることができます。
特に全従業員に共通するルールや基準は、団体交渉の対象として認められやすい傾向があります。
賃金・手当
賃金に関する事項は団体交渉の中心的なテーマです。基本給の水準、定期昇給の仕組み、賞与の算定基準などは、団体交渉によって改善できる可能性があります。
各種手当についても交渉対象となります。
| 手当の種類 | 交渉内容の例 |
|---|---|
| 時間外手当 | 割増率の引き上げ、計算方法の明確化 |
| 住宅手当 | 支給額の増額、支給対象の拡大 |
| 家族手当 | 配偶者・子どもへの支給額の見直し |
| 通勤手当 | 上限額の引き上げ、在宅勤務時の扱い |
労働時間・休日
労働時間や休日に関する事項も、団体交渉で改善を求めやすい内容です。所定労働時間の短縮、休日日数の増加、年次有給休暇の取得促進などが該当します。
長時間労働の是正は多くの労働組合が重視するテーマです。時間外労働の上限設定、勤務間インターバル制度の導入、ノー残業デーの設定などを交渉できます。
働き方ルール
働き方に関する基本的なルールも団体交渉の対象です。在宅勤務制度の導入条件、フレックスタイム制の適用範囲、育児・介護と仕事の両立支援策などを交渉できます。
働き方改革の流れの中で、ワークライフバランスを実現するための制度設計は重要な交渉テーマとなっています。
安全衛生・健康
職場の安全衛生や健康管理に関する事項も交渉対象です。安全設備の整備、健康診断の充実、メンタルヘルス対策の強化などを求めることができます。
特に長時間労働による健康被害を防ぐための措置は、労働組合が積極的に取り組むべき課題です。
団体交渉で増えない・改善されにくい待遇

一方で、団体交渉では改善が難しい事項もあります。
個人に関わる事項や会社の経営判断に属する事項は、団体交渉の対象として認められにくい傾向があります。
個別の昇給・個人評価
特定の個人に対する昇給や評価は、団体交渉の対象外です。「Aさんの給料を上げてほしい」といった個別の要求は、団体交渉では扱えません。
ただし、評価制度そのものの仕組みや基準については交渉できます。
- 評価基準の透明性を高める
- 評価結果のフィードバック方法を改善する
- 昇給・昇格の仕組みを明確にする
制度の枠組みは交渉対象ですが、個人への適用結果は対象外という区別が重要です。
特定個人だけ得する福利厚生
特定の個人のみが利益を受ける福利厚生の追加も、団体交渉では認められません。「私だけ保養所を利用できるようにしてほしい」といった要求は、組合活動の範囲を超えています。
福利厚生は全従業員または一定の条件を満たす従業員を対象とするものであり、特定個人への便宜供与は福利厚生の性質に反します。
会社の経営判断そのもの
会社の経営判断に属する事項は、原則として団体交渉の対象外です。
| 対象外の事項 | 理由 |
|---|---|
| 事業計画の策定 | 経営層の専権事項 |
| 新規事業への投資判断 | 経営戦略に関わる |
| 人事異動の個別決定 | 人事権の行使 |
| 採用活動の方針 | 経営判断の範囲 |
ただし、経営判断の結果として労働条件に影響が出る場合は、その影響について交渉できる可能性があります。
組合の福利厚生=「組合員向けの上乗せ支援」

労働組合が独自に提供する福利厚生は、会社の福利厚生とは別のものです。
組合費を原資として、組合員だけが利用できる支援制度を設けている組合が多くあります。
共済と提携割引の2つ
組合の福利厚生は、主に共済制度と提携割引の2種類に分けられます。
共済制度では、組合員の相互扶助を目的とした給付を行います。
- 慶弔給付金:結婚や出産、家族の不幸などの際に給付金を支給
- 医療共済:病気やケガの際に見舞金を支給
- 災害共済:火災や自然災害の被害を受けた際に支援金を支給
提携割引では、組合が契約した施設やサービスを割引価格で利用できます。レジャー施設、保養所、ホテル、レンタカーなどの割引が一般的です。
会社制度と組合支援の違い
会社の福利厚生と組合の福利厚生は、明確に区別する必要があります。
| 項目 | 会社の福利厚生 | 組合の福利厚生 |
|---|---|---|
| 原資 | 会社の経費 | 組合費 |
| 対象 | 全従業員(条件該当者) | 組合員のみ |
| 内容 | 会社が決定 | 組合が決定 |
| 目的 | 人材確保・定着 | 組合員の相互扶助 |
組合の福利厚生は、会社の福利厚生に上乗せする形で提供されるものです。組合費を支払っている組合員だけが利用できる点が、会社の福利厚生との大きな違いです。
まとめ

福利厚生と労働組合は、主体・原資・変更手段・対象という4つの軸で明確に異なります。福利厚生は会社が提供する制度であり、労働組合は労働者が団結して待遇改善を求める組織です。
団体交渉では、賃金や労働時間、働き方ルール、安全衛生など、全従業員に共通する労働条件の改善を求めることができます。一方で、個別の昇給や特定個人への便宜、会社の経営判断そのものは交渉対象外です。
組合が独自に提供する福利厚生は、組合費を原資とした組合員向けの上乗せ支援です。会社の福利厚生と組合の支援を適切に活用することで、より充実した待遇を実現できます。
自分の職場でどのような制度が利用できるのか、労働組合がどのような活動をしているのかを確認し、必要に応じて組合活動に参加することを検討してみましょう。
