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健康診断は勤務時間扱い?労働時間になるケースと給与・有給の扱いを解説

健康診断は勤務時間扱い?労働時間になるケースと給与・有給の扱いを解説
ふくラボ編集部

企業で働く従業員にとって、年に一度の健康診断は重要な行事です。

しかし、健康診断の受診時間が勤務時間扱いになるのか、それとも有給休暇を使わなければならないのか、疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。

また、企業の人事担当者にとっても、健康診断の実施時に賃金を支払う義務があるのか、就業規則にどう定めるべきかは悩ましい問題です。

本記事では、労働基準法や安全衛生法に基づいて、健康診断が勤務時間扱いになるケースとならないケースを明確に解説します。

一般健康診断と特殊健康診断の違い、賃金支払の義務、休日受診時の対応、さらには企業が取るべき実務上の対応まで、具体的な根拠を示しながら詳しく説明していきます。

健康診断の種類と法的義務の基本

健康診断には複数の種類があり、それぞれ法的な位置づけや企業の義務が異なります。

労働時間や賃金の扱いを理解するためには、まず健康診断の種類と実施義務について正しく把握することが必要です。

一般健康診断と特殊健康診断の違い

労働安全衛生法では、企業が実施する健康診断を大きく「一般健康診断」と「特殊健康診断」に分類しています。

一般健康診断は、すべての労働者を対象に実施される定期健康診断や雇入時健康診断などを指します。

これは労働者の一般的な健康状態を確認するためのもので、年に1回以上の実施が企業に義務付けられています。

検査項目には身長・体重測定、血圧測定、血液検査、尿検査、胸部X線検査などが含まれます。

一方、特殊健康診断は、有機溶剤や鉛、石綿など有害業務に従事する労働者に対して実施される健康診断です。

業務に起因する健康障害を早期に発見し、予防することを目的としており、該当する業務に従事する労働者に対しては、半年に1回など一般健康診断よりも高い頻度での実施が求められます。

企業に課される実施義務の範囲

労働安全衛生法第66条により、企業は労働者に対して医師による健康診断を実施する義務があります。

この義務は常時使用する労働者が対象となり、正社員だけでなく、一定の要件を満たすパートタイム労働者や契約社員も含まれます。

具体的には、週の労働時間が正社員の4分の3以上である労働者は、健康診断の実施対象となります。

また、企業は健康診断の結果を記録し、5年間保存する義務も負っています。

実施義務に違反した場合、企業には50万円以下の罰金が科される可能性があります。

そのため、対象となる従業員を正確に把握し、適切に健康診断を実施することが企業には求められています。

健康診断が勤務時間扱いになるケース・ならないケース

健康診断の受診時間が労働時間として扱われるかどうかは、健康診断の種類によって大きく異なります。

ここでは行政通達や判例に基づいて、具体的な判断基準を解説します。

一般健康診断は原則として勤務時間扱いにならない

厚生労働省の行政解釈(昭和47年9月18日基発602号)によれば、一般健康診断の受診に要する時間は、原則として労働時間として扱う必要はないとされています。

その理由は、一般健康診断が労働者の一般的な健康確保を目的とするものであり、業務に起因する特定のリスクに対応するものではないためです。

企業は一般健康診断の受診時間に対して賃金を支払う法的義務を負いません。

多くの企業では、受診時間を有給休暇として扱ったり、従業員の自己都合による欠勤として処理したりしています。

ただし、法的義務がないからといって、企業が何も配慮しなくてよいわけではありません。

後述するように、労働者の健康管理を円滑に進めるため、多くの企業が自主的に受診時間を勤務扱いにしたり、賃金を支払ったりしています。

特殊健康診断は業務の一環として勤務時間扱いに

特殊健康診断の場合、状況は大きく異なります。

同じ行政解釈において、特殊健康診断は業務の遂行に関連して実施されるものであり、その受診に要する時間は労働時間として扱う必要があるとされています。

特殊健康診断が業務時間扱いとなる根拠は、以下の点にあります。

  • 特定の有害業務に従事することで生じる健康リスクへの対応である
  • 業務との直接的な関連性が強い
  • 業務上の必要性から実施される

特殊健康診断は勤務時間扱いとなり、企業は賃金を支払う義務があります。

休日に受診した場合であっても、休日出勤として割増賃金の対象となることもあります。

企業が任意で勤務扱いにする場合の考え方

法的には一般健康診断の受診時間に賃金支払義務がない場合でも、多くの企業が自主的に勤務時間扱いとし、賃金を支払っています。

その理由には以下のようなものがあります。

  • 従業員の健康管理は企業の社会的責任である
  • 受診率を向上させることで労働災害や疾病を予防できる
  • 従業員のモチベーション向上や福利厚生の充実につながる
  • 受診のハードルを下げることで早期発見・早期治療が可能になる

実際、2026年現在では、大企業を中心に健康診断の受診時間を勤務時間扱いとし、通常の賃金を支払う企業が増加しています。

これは「健康経営」という考え方が普及し、従業員の健康を経営的な課題として捉える企業が増えたことが背景にあります。

勤務時間・賃金・有給の実務上の扱い

健康診断の実施にあたって、企業は勤務時間、賃金支払、有給休暇など、さまざまな観点から適切な対応を取る必要があります。

ここでは実務上の判断基準と対応方法を詳しく解説します。

受診時間に賃金を支払う必要があるか

賃金支払の義務は、前述のとおり健康診断の種類によって異なります。

以下の表で整理します。

健康診断の種類 賃金支払義務 根拠
一般健康診断 法的義務なし 昭和47年9月18日基発602号
特殊健康診断 法的義務あり 同上(業務の一環として扱う)
企業が任意で実施する健診 就業規則による 企業の判断に委ねられる

一般健康診断について法的な賃金支払義務はありませんが、実務上は以下のような対応が一般的です。

  • 勤務時間内に受診させ、通常の賃金を支払う(最も普及している方法)
  • 受診時間を特別休暇として設定し、有給扱いとする
  • 午前中に健診を実施し、午後から通常勤務とする
  • 受診時間分の時間単位有給休暇の使用を認める

企業が賃金を支払う場合、その金額は通常の賃金と同額であることが一般的です。

時間外や休日に受診させる場合でも、割増賃金ではなく通常賃金を支払う企業が多い傾向にあります。

有給休暇の使用を強制できるか

企業が健康診断の受診時間に賃金を支払わない場合、従業員が有給休暇を使用して受診することがあります。

この際、企業側から有給休暇の使用を強制することはできません。

有給休暇の取得時季は原則として労働者が決める権利であり、企業が一方的に「健診は有給で」と定める運用はトラブルになりやすい点に注意が必要です。

実務上、望ましい対応は以下のとおりです。

  • 健康診断の受診時間を勤務時間扱いとし、賃金を支払う
  • 就業規則で健康診断受診時の取扱いを明確に定める
  • 従業員が自主的に有給休暇を使用する場合は認める
  • 受診しやすい環境を整備し、受診率の向上を図る

休日や勤務時間外の受診への対応

企業が指定する医療機関での受診日が休日や勤務時間外になる場合、企業はどのような対応を取るべきでしょうか。

一般健康診断の場合、法的には休日出勤や時間外労働としての賃金支払義務はありません。

ただし、企業が従業員の受診率向上や利便性を考慮する場合、以下のような対応が推奨されます。

  • 勤務時間内に受診できるよう日程調整する
  • 休日受診の場合は代休を付与する
  • 時間外受診の場合は始業時刻の繰り下げや終業時刻の繰り上げを行う
  • 複数の受診機会を設け、従業員が選択できるようにする

特殊健康診断は業務の一環なので、休日・時間外受診なら割増賃金の対象となり得ます。

就業規則での定め方と企業が取るべき対応

健康診断の実施にあたっては、就業規則に明確な規定を設けることが重要です。

ここでは就業規則の記載例と、企業が実務上注意すべきポイントを解説します。

就業規則に記載すべき事項

健康診断の取扱いは就業規則で明確化しておくことが推奨されます。

健康診断に関する就業規則の記載事項として、以下の項目を明確にしておくことが推奨されます。

  • 健康診断の実施対象者(正社員、契約社員、パートタイム労働者など)
  • 実施する健康診断の種類(定期健康診断、雇入時健康診断など)
  • 受診時間の取扱い(勤務時間扱いか否か)
  • 賃金の支払有無と金額
  • 受診場所(企業指定の医療機関か、従業員が選択可能か)
  • 健康診断結果の取扱いと保管方法
  • 受診義務と受診しない場合の対応

就業規則の記載例としては、以下のような文言が考えられます。

「会社は、労働安全衛生法に基づき、従業員に対して年1回の定期健康診断を実施する。健康診断の受診時間は勤務時間とみなし、通常の賃金を支払う。従業員は正当な理由なく健康診断の受診を拒否してはならない。」

このように明確に規定することで、従業員との間でトラブルが生じることを防ぐことができます。

受診率を向上させるための実務上の工夫

企業が健康診断の受診率を向上させるためには、以下のような工夫が有効です。

受診環境の整備

  • 勤務時間内に受診できる体制を整える
  • 複数の受診日程を用意し、従業員が選択できるようにする
  • 事業所内に健診会場を設置する
  • 近隣の医療機関と提携し、受診しやすい環境を作る

制度面での配慮

  • 受診時間を勤務時間扱いとし、賃金を支払う
  • 受診のための移動時間も勤務扱いとする
  • 健康診断当日は業務量を調整する
  • 受診確認後にインセンティブを付与する

情報提供とコミュニケーション

  • 健康診断の重要性を定期的に周知する
  • 未受診者に対して個別に受診を促す
  • 健康診断の結果説明会を開催する
  • 産業医や保健師による健康相談の機会を設ける

労働者が受診を拒否した場合の対応

企業には健康診断の実施義務がありますが、労働者側にも受診義務があるのでしょうか。

労働安全衛生法第66条第5項では、労働者は事業者が行う健康診断を受けなければならないと定められており、受診は労働者の義務とされています。

しかし、実際には健康診断の受診を拒否する労働者も存在します。

その理由はさまざまです。

  • 時間的な余裕がない
  • 健康診断への不安や抵抗感
  • プライバシーへの懸念
  • 過去の健康診断での不快な経験

労働者が受診を拒否した場合、企業は以下のような段階的な対応を取ることが推奨されます。

  1. 受診の重要性を丁寧に説明し、理解を求める
  2. 受診しやすい環境や日程の調整を提案する
  3. 人事部門や上司が個別に面談し、受診を促す
  4. それでも受診しない場合は、就業規則に基づいて懲戒処分を検討する

いきなり懲戒ではなく、十分な配慮と対話を経て判断することが重要です。

また、宗教上の理由や健康上の理由など、正当な理由がある場合は、個別に対応を検討することも重要です。

健康診断結果に基づく事後措置

健康診断の実施は、単に診断を行うだけでなく、その結果に基づく適切な事後措置が重要です。

労働安全衛生法第66条の4では、企業は健康診断の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければならないとされています。

事後措置として企業が取るべき対応には、以下のようなものがあります。

  • 健康診断の結果を労働者に通知する(実施後遅滞なく)
  • 異常所見がある労働者について医師の意見を聴く
  • 医師の意見を踏まえて就業上の措置を決定する(就業制限、労働時間短縮、配置転換など)
  • 保健指導や受診勧奨を行う
  • 健康診断の結果を記録し、5年間保存する

特に、長時間労働者やストレスチェックで高ストレスと判定された労働者については、医師による面接指導を実施するなど、より手厚い対応が求められます。

まとめ

健康診断が勤務時間扱いになるかどうかは、一般健康診断と特殊健康診断で異なります。

特殊健康診断は業務の一環として賃金支払義務がありますが、一般健康診断は法的義務がないものの、多くの企業が従業員の健康管理と受診率向上のため自主的に勤務扱いとしています。

企業は就業規則で取扱いを明確化し、受診しやすい環境を整備することが実務上のポイントです。

これにより、従業員の健康保持と労働生産性の向上を実現できます。

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