福利厚生の廃止・縮小は不利益変更になる?進め方と注意点を人事向けに解説
経営環境の変化やコスト削減の必要性から、福利厚生の見直しを検討する企業が増えています。
しかし、福利厚生の廃止や縮小は、従業員にとって労働条件の低下を意味するため、慎重な対応が求められます。
福利厚生の廃止・縮小は「不利益変更」に該当する可能性があり、適切な手続きを踏まないと労働紛争に発展するリスクがあります。
本記事では、福利厚生の見直しを検討している人事担当者に向けて、不利益変更の判断基準、従業員の同意を得るための具体的な進め方、トラブル回避のポイントを解説します。
福利厚生の廃止・縮小は不利益変更に該当する?

福利厚生の廃止・縮小が不利益変更に該当するかは、その内容や従業員への影響によって判断されます。
労働契約法では、従業員の合意なく労働条件を不利益に変更することを原則として禁止しています。
福利厚生は労働条件の一部であるため、その廃止や縮小は不利益変更とみなされる可能性があります。
特に、従業員の実質的な手取りに影響を与える福利厚生の変更には注意が必要です。
不利益変更とみなされるケース
不利益変更とみなされやすいのは、従業員の経済的利益に直接影響を与える福利厚生の廃止・縮小です。
以下のようなケースは不利益変更に該当する可能性が高くなります。
| 福利厚生の種類 | 不利益変更とみなされやすい理由 |
|---|---|
| 住宅手当の廃止 | 毎月の手取り額が直接減少し、生活設計への影響が大きい |
| 家族手当・配偶者手当の縮小 | 賃金に近い性質を持ち、従業員が生活費として計算している |
| 通勤手当の減額 | 実費補填の性質が強く、従業員の実質負担が増加する |
| 退職金制度の廃止 | 将来の生活設計に大きく影響し、労働条件の重要な要素である |
これらの福利厚生は、従業員が生活費の一部として計算していることが多く、廃止や縮小によって従業員の経済的不利益が明確に発生します。
そのため、労働契約法における不利益変更に該当すると判断される可能性が高くなります。
「賃金に近いもの」は特に注意
福利厚生の中でも、賃金に近い性質を持つものは特に慎重な対応が求められます。
賃金は労働条件の中核をなすものであり、その変更には厳格な要件が課されるためです。
賃金に近い福利厚生とは、以下のような特徴を持つものを指します。
- 毎月定期的に支給されるもの(住宅手当、家族手当など)
- 金額が明確で、従業員が給与の一部として認識しているもの
- 就業規則や労働契約で支給条件が明示されているもの
- 従業員の生活設計の基礎となっているもの
これらの福利厚生を廃止・縮小する場合、賃金の引き下げと同等の扱いとなり、従業員の同意や就業規則変更の手続きが必須となります。
労働基準監督署への届出や、労働者代表からの意見書聴取も必要になります。
不利益変更になりにくい例もある
一方で、すべての福利厚生の廃止・縮小が不利益変更に該当するわけではありません。
従業員への影響が限定的であったり、任意性が高いものは、不利益変更とみなされにくい傾向があります。
| 福利厚生の種類 | 不利益変更とみなされにくい理由 |
|---|---|
| 社員旅行の廃止 | 参加が任意であり、金銭的価値の算定が難しい |
| 社内イベントの縮小 | 従業員の経済的利益に直接影響しない |
| 福利厚生施設の利用条件変更 | 利用が任意で、利用頻度に個人差が大きい |
| 慶弔見舞金の減額 | 発生頻度が低く、全従業員への影響が均一でない |
ただし、不利益変更とみなされにくい場合でも、従業員満足度やモチベーションへの影響は考慮する必要があります。
丁寧な説明と、可能な範囲での代替策の提示が望ましいでしょう。
不利益変更になる?4つの判断ポイント

福利厚生の廃止・縮小が不利益変更に該当するかを判断するには、複数の要素を総合的に検討する必要があります。
ここでは、実務で特に重要となる4つの判断ポイントを解説します。
これらのポイントを事前に整理することで、変更の合理性を客観的に評価し、適切な手続きを選択できます。
対象者は誰?全員?一部?条件付き?
福利厚生の変更が誰に適用されるかは、不利益変更の判断において重要な要素です。
対象者の範囲によって、従業員の受け止め方や必要な手続きが変わります。
- 全従業員が対象:公平性は高いが、影響範囲が広く反発も大きくなる可能性がある
- 特定の職種・等級のみ対象:合理的な理由が必要で、不公平感を生む可能性がある
- 新規入社者のみ対象:既存従業員への影響がなく、比較的導入しやすい
- 条件付き(年齢・勤続年数など):条件設定の合理性が問われる
対象者を限定する場合は、その基準に合理性があることを明確に説明できる必要があります。
例えば、在宅勤務者のみ通勤手当を減額する場合、実際に通勤していないという事実に基づく合理的な変更といえます。
従業員の不利益の大きさは?実質的な手取りへの影響は?
従業員が被る不利益の程度は、不利益変更の判断において最も重要な要素の一つです。
不利益が大きいほど、従業員の同意を得ることが難しくなり、より慎重な手続きが求められます。
不利益の大きさを判断する際は、以下の視点で評価します。
| 評価項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 金額的影響 | 月額・年額でいくらの減少になるか(手取りベースで試算) |
| 給与に占める割合 | 基本給や総支給額の何%に相当するか |
| 生活への影響 | 住宅ローンや生活費の計算に組み込まれているか |
| 代替可能性 | 他の手段で補うことができるか |
一般的に、月額数千円程度の減少であっても、それが継続的なものであれば年間では大きな金額になります。
また、基本給の5%以上に相当する場合は、不利益の程度が大きいと判断される傾向があります。
変更の必要性はある?
福利厚生を廃止・縮小する必要性があるかも、重要な判断要素です。
単なるコスト削減だけでなく、経営上の合理的な理由が求められます。
変更の必要性を説明する際に有効な理由には、以下のようなものがあります。
- 経営状況の悪化により、人件費の削減が避けられない
- 働き方の変化(在宅勤務の増加など)により、制度の実態が合わなくなった
- 制度の利用率が著しく低く、維持コストに見合わない
- 法改正により、現行制度の継続が困難になった
- 同業他社の水準と比較して過剰な福利厚生となっている
変更の必要性を示す際は、具体的なデータや客観的な事実を示すことが重要です。
例えば、利用実態の調査結果や、経営数値の推移などを提示することで、従業員の理解を得やすくなります。
代替策はある?
福利厚生を廃止・縮小する際に、何らかの代替策や代償措置を用意できるかも、不利益変更の判断に影響します。
代替策があることで、従業員の不利益を軽減し、合意を得やすくなります。
| 代替策の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 金銭的代償 | 基本給への一部組み入れ、一時金の支給 |
| 別の福利厚生の充実 | カフェテリアプランの導入、健康支援制度の拡充 |
| 柔軟な働き方の提供 | 在宅勤務の拡大、フレックスタイムの導入 |
| キャリア支援 | 研修制度の充実、資格取得支援の強化 |
代替策は、廃止する福利厚生と同等の価値を持つ必要はありませんが、従業員の不利益を少しでも軽減する姿勢を示すことが、合意形成において重要です。
また、従業員のニーズに合った代替策を選ぶことで、従業員満足度の低下を最小限に抑えられます。
従業員の同意はどう取る?合意形成の進め方

福利厚生の廃止・縮小を実施する際は、従業員の同意を得るための丁寧なプロセスが不可欠です。
ここでは、実務で有効な5つのステップを順に解説します。
①現状の棚卸し(規程・運用・利用実態)
まず、現在の福利厚生制度の全体像を正確に把握します。
就業規則や福利厚生規程に記載されている内容だけでなく、実際の運用状況や利用実態も確認することが重要です。
- 就業規則・福利厚生規程の記載内容を確認する
- 各福利厚生の支給条件、金額、対象者を整理する
- 過去1〜2年の利用実績データを集計する
- 従業員アンケートで利用状況や満足度を調査する
- 年間コストを福利厚生ごとに算出する
この段階で、規程と実際の運用にズレがないかも確認します。
規程に記載がないまま慣例で支給している福利厚生がある場合、それも含めて棚卸しを行う必要があります。
②影響試算(社員別・部門別)
福利厚生の変更によって、従業員一人ひとりにどのような影響が出るかを具体的に試算します。
全体の平均だけでなく、個別の影響額を把握することが重要です。
| 試算項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 個人別影響額 | 各従業員の月額・年額の減少額を算出 |
| 影響の分布 | 影響が大きい層と小さい層の人数と割合 |
| 部門別影響 | 部門ごとの平均影響額と総額 |
| 属性別影響 | 年齢、勤続年数、職種などによる影響の差 |
影響試算の結果、特定の層に不利益が集中する場合は、変更案の見直しや経過措置の検討が必要です。
例えば、住宅手当の廃止が既婚者に大きな影響を与える場合、家族手当の増額などで一部を補う方法も検討できます。
③変更案の設計(対象・上限・適用日)
影響試算の結果を踏まえて、具体的な変更案を設計します。
変更の内容、対象者、適用開始日、経過措置などを明確にします。
- 変更内容:何をどのように変更するか(廃止・減額・条件変更など)
- 対象者:全従業員か、一部か、新規入社者のみか
- 適用開始日:いつから適用するか(準備期間を十分に確保)
- 経過措置:既存の権利をどう扱うか(段階的縮小、一定期間の保障など)
- 代償措置:代わりに何を提供するか
変更案は、複数のパターンを用意して比較検討することが望ましいでしょう。
従業員への影響、コスト削減効果、実務の負担などを総合的に評価します。
④社内説明(理由・影響・救済策)
変更案が固まったら、従業員への説明を行います。
説明の方法は、変更の規模や影響の大きさに応じて選択します。
- 労働組合または労働者代表への事前説明と意見聴取
- 全体説明会の開催(変更の背景、理由、内容を説明)
- 部門別・職場別の説明会(具体的な影響と質疑応答)
- 個別面談(影響が大きい従業員への丁寧な説明)
- 書面での通知(説明内容を文書化して配布)
説明の際は、変更の必要性を誠実に伝えるとともに、従業員の不安や疑問に丁寧に答える姿勢が重要です。
一方的な通告ではなく、対話を通じて理解を求める姿勢を示すことで、従業員の納得感を高められます。
⑤施行(周知・申請切替・問い合わせ窓口)
従業員の同意が得られたら、変更を正式に施行します。
施行にあたっては、混乱を避けるための準備が必要です。
| 実施項目 | 具体的な対応 |
|---|---|
| 就業規則の変更 | 労働基準監督署への届出、労働者代表の意見書添付 |
| 周知 | 社内掲示板、イントラネット、メールでの通知 |
| 給与システムの変更 | 給与計算システムの設定変更、テスト実施 |
| 問い合わせ窓口 | 人事部門に専用窓口を設置、FAQ作成 |
施行後も、従業員からの問い合わせに適切に対応し、必要に応じて追加説明を行います。
また、施行後の状況をモニタリングし、想定外の問題が生じていないか確認することも重要です。
トラブルを避けるための注意点

福利厚生の廃止・縮小を進める際、トラブルを避けるためには、いくつかの重要な注意点があります。
ここでは、実務で特に気をつけるべきポイントを解説します。
これらの注意点を押さえることで、従業員との信頼関係を維持しながら、円滑に変更を実施できます。
「いきなり廃止」を避ける
福利厚生の廃止・縮小を突然実施することは、従業員の反発を招き、労働紛争のリスクを高めます。
十分な準備期間と説明期間を設けることが不可欠です。
- 最低でも3〜6ヶ月前には変更の方針を予告する
- 従業員が生活設計を見直す時間を確保する
- 質問や相談に応じる期間を十分に設ける
- 段階的な縮小を検討する(一度に全廃しない)
特に住宅手当や家族手当など、従業員の生活に直結する福利厚生は、予告期間を長めに設定することが望ましいでしょう。
従業員が住宅ローンの見直しや家計の調整を行う時間を確保することで、不利益を最小限に抑えられます。
経過措置を作る
既存の従業員に対しては、経過措置を設けることで、急激な不利益を緩和できます。
経過措置は、従業員の納得感を高め、合意形成を円滑にする効果があります。
| 経過措置の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 段階的縮小 | 3年間で毎年3分の1ずつ減額し、最終的に廃止 |
| 既得権の保護 | 変更時点の在籍者は従来通り、新規入社者から適用 |
| 上限設定 | 減額幅に上限を設け、一定額以上は保障 |
| 期限付き保障 | 5年間は現行水準を保障し、その後見直し |
経過措置の期間は、変更の内容や影響の大きさに応じて設定します。
一般的には、影響が大きいほど長い経過措置期間を設けることが適切です。
代償措置の選び方
福利厚生を廃止・縮小する際、代償措置を提供することで、従業員の不利益を軽減し、モチベーションの低下を防げます。
代償措置は、従業員のニーズに合ったものを選ぶことが重要です。
- 従業員アンケートで、どのような福利厚生が求められているか調査する
- 多様な働き方に対応できる柔軟な制度を検討する(カフェテリアプランなど)
- 金銭的な代償だけでなく、働きやすさの向上も選択肢に含める
- 代償措置のコストが、削減額を上回らないよう注意する
代償措置は、廃止する福利厚生と同等の価値である必要はありませんが、従業員に対する配慮の姿勢を示すことが重要です。
例えば、住宅手当を廃止する代わりに、在宅勤務制度を拡充することで、通勤負担を軽減するといった方法も考えられます。
よくある質問

福利厚生の廃止・縮小に関して、人事担当者から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。実務の参考にしてください。
従業員の同意が取れない場合はどうする?
従業員の同意が得られない場合でも、就業規則の変更手続きを経て、一定の要件を満たせば変更が可能な場合があります。
ただし、これは最終手段と考えるべきです。
労働契約法第10条では、就業規則の変更が合理的であれば、従業員の個別同意がなくても労働条件を変更できるとされています。
合理性の判断には、以下の要素が考慮されます。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
同意が得られない場合は、変更の必要性をより丁寧に説明する、経過措置を延長する、代償措置を追加するなど、合意形成に向けた努力を継続することが重要です。
どうしても合意が得られない場合は、労働問題に詳しい弁護士や社会保険労務士に相談することをお勧めします。
経過措置はどのくらいの期間が目安?
経過措置の期間に法的な定めはありませんが、一般的には3〜5年程度が目安となります。
ただし、不利益の大きさや変更の内容によって適切な期間は異なります。
| 不利益の程度 | 経過措置の期間目安 |
|---|---|
| 小(月額数千円程度) | 1〜2年 |
| 中(月額1〜3万円程度) | 3〜5年 |
| 大(月額3万円以上) | 5年以上、または段階的縮小 |
住宅手当や退職金制度など、従業員の生活設計に大きく影響する福利厚生については、より長い経過措置期間を設けることが望ましいでしょう。
また、年齢や勤続年数によって経過措置の期間を変える方法もあります。
新卒・中途・転勤者など入社時期で扱いを分けてもいい?
入社時期によって福利厚生の扱いを分けることは可能ですが、合理的な理由が必要です。
一般的には、変更の施行日を基準に、既存従業員と新規入社者で扱いを分けることが多く行われています。
入社時期で扱いを分ける場合の注意点は以下の通りです。
- 施行日と適用対象(既存従業員/新規入社者)を規程上はっきり分ける
- 既存従業員に不利益が出る場合は、経過措置(段階的縮小・期限付き保障など)をセットにする
- 採用時の説明資料(オファー面談・労働条件通知書)と制度内容を一致させる
- 転勤者など途中で条件が変わる層は、適用基準(勤務地・職務・通勤実態など)を明文化する
特に新規入社者のみ新制度を適用する運用は、既存従業員の既得権を守りやすい一方で、社内で制度が二重化します。
いつまで二重運用するのか、将来的な統合方針も合わせて示すと混乱を抑えられます。
まとめ

福利厚生の廃止・縮小は、不利益変更に該当する可能性があります。
特に賃金に近い制度は、影響試算と合意形成を丁寧に行うことが重要です。
現状把握→影響試算→変更案設計→説明→施行の順で進め、経過措置と代償措置で不利益を緩和してください。
記録を残しながら進めることで、トラブルを防ぎつつ制度見直しを実現しやすくなります。
