雇入時健康診断は会社の義務|対象者・項目・省略できる条件
新しく人を採用するとき、健康診断をいつ、誰に、どこまで受けさせればよいか迷う担当者は少なくありません。
雇入時健康診断は、法律で会社に義務づけられた健診です。
正社員だけでなく、条件を満たすパートやアルバイトも対象になり、検査項目の省略も認められていません。
この記事では、雇入時健康診断の対象者、11の検査項目、省略できる条件、費用と進め方を、人事・総務の担当者向けに整理します。
この記事で分かること
- 雇入時健康診断の対象になる人と、11の検査項目
- 入社前の健診結果で省略できる条件
- 費用の扱いと、採用から受診までの流れ
雇入時健康診断は会社の義務
この健診は、「雇入れ時の健康診断」「入社時健診」とも呼ばれます。
採用した人の健康状態を把握し、配置や入社後の健康管理に役立てるための健診です。
法律の根拠と実施する時期
根拠は、労働安全衛生法にもとづく労働安全衛生規則の第43条です。
常時使用する労働者を雇い入れるときに、健診を行うことが義務づけられています。
法律上は「一般健康診断」のひとつで、業種や会社の規模にかかわらず必須です。
実施の時期は「雇い入れるとき」とされており、何日以内という期限は条文にありません。
実務では、入社の直前か、入社後できるだけ早い時期に実施します。
入社から何か月も空けると、義務を果たしていないと判断されるおそれがあります。
実施しない場合の罰則
健診を実施する義務に違反した事業者には、50万円以下の罰金が定められています。
罰則だけでなく、持病を把握しないまま働かせて事故が起きた場合は、会社の安全配慮が問われます。
義務の全体像は、健康診断の法的義務の記事で解説しています。
定期健康診断との違い
雇入時健康診断と定期健康診断の違い
入社時に受けた人は、受診から1年間、定期健診の同じ項目を省略できます。
雇入時健康診断の義務がある対象者
対象は「常時使用する労働者」です。
雇用形態の名前ではなく、契約の期間と労働時間で判断します。
正社員は全員が対象
期間の定めのない契約で働く正社員は、全員が対象です。
試用期間中であっても、雇い入れた時点で対象になります。
新卒採用、中途採用のどちらにも、同じ義務があります。
パートとアルバイトの判断基準
パートやアルバイトは、次の2つの条件をどちらも満たす場合に対象となります。
パート・アルバイトは対象?2つの質問で判定
4分の3未満でも、おおむね2分の1以上の人には、実施することが望ましいとされています。
くわしい判断の例は、パートの健康診断は義務?を確認してください。
役員と派遣社員の扱い
役員は、原則として労働者にあたらないため、義務の対象ではありません。
派遣社員は、雇用主である派遣元の会社が実施します。
受け入れる側の会社は、派遣元で実施されているかを確認しておくと安心です。
出向で受け入れる人については、出向元と出向先のどちらが実施するかを、契約で決めておきます。
入社時の健診の「準備キット」をお送りしています
入社予定者を入力すると、雇入時健康診断の対象かどうかと、入社前の健診結果で省略できるかの目安が出るExcelです。案内の文例もついています。

- 対象者の判定(パート・アルバイトの判断も)
- 内定者への案内・入社前の健診結果の提出のお願いなど、文例4つ
- 11の検査項目の確認表と、入社から保存までの流れ
どこでもクリニックのサービス資料と一緒に、メールでURLをお送りします
雇入時健康診断の検査項目は11項目
検査項目は、労働安全衛生規則で次の11項目と決められています。
- 既往歴と業務歴の調査
- 自覚症状と他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力、聴力の検査
- 胸部エックス線検査
- 血圧の測定
- 貧血検査(赤血球数、血色素量)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
- 血糖検査
- 尿検査(尿中の糖と蛋白の有無)
- 心電図検査
検査項目ごとに分かること
| 検査 | 分かること |
|---|---|
| 既往歴・業務歴、自覚症状 | 過去の病気と、これまでの仕事による健康への影響 |
| 身長・体重・腹囲、血圧 | 肥満や高血圧など、生活習慣病のリスク |
| 視力・聴力 | 運転や機械の操作など、業務に必要な機能 |
| 胸部エックス線 | 結核など、肺の病気の有無 |
| 貧血・肝機能・血中脂質・血糖 | 貧血、肝臓の状態、脂質の異常、糖尿病の疑い |
| 尿検査、心電図 | 腎臓の状態、不整脈など心臓の異常 |
結果は、採用した人をどの業務に配置するかを適切に判断するための材料になります。
年齢による項目の省略はできない
定期健診では、40歳未満の人の血液検査や心電図を、医師の判断で省略できる場合があります。
雇入時健康診断では、こうした項目の省略は認められていません。
若い人を採用した場合でも、11項目すべての実施が必要です。
医療機関に予約するときは、「雇入時の健診」と伝えて、項目がそろったコースを選んでください。
有害な業務に就く人は特殊健康診断も必要
有機溶剤や鉛、放射線などを扱う業務に従事させる場合は、この健診とは別に、特殊健康診断が必要です。
特殊健康診断は、その業務に就かせる前に実施します。
深夜業などの特定業務に配置する場合も、配置の時点と、その後6か月以内ごとの健診が義務です。
配属先の業務が該当するかどうかは、採用を決めた段階で確認しておくことが重要です。
雇入時健康診断を省略できる条件
本人が、入社前3か月以内に受けた健診の結果を書面で提出した場合は、同じ項目の実施を省略できます。
前の職場での定期健診や、本人が受けた人間ドックの結果が使えます。
入社前の健診結果で省略できるかを判定
提出された結果で確認する3つの点
- 受診した日が、雇い入れの日からさかのぼって3か月以内か
- 11項目がすべて含まれているか
- 医師による診断の結果が記載されているか
足りない項目がある場合は、その項目だけを追加で受けてもらいます。
前の職場の定期健診は、年齢によって項目が省略されていることが多いため、内容の確認が必要です。
省略できないケース
受診から3か月を超えている結果は、項目がそろっていても代わりにできません。
本人の自己申告や、結果の一部だけを写したメモも、書面の提出にはあたりません。
判断に迷う場合は、あらためて受けてもらうのが確実です。
雇入時健康診断の費用と進め方
費用は会社が負担する
法律で義務づけられた健診の費用は、事業者が負担すべきものとされています。
料金は医療機関によって異なり、1人あたり1万円前後が目安です。
本人が入社前にすでに受けていた健診の費用まで、会社が負担する義務はありません。
費用の範囲は、健診費用のうち会社負担になる範囲と賃金の扱いで整理しています。
出典:健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?|厚生労働省
採用から受診までの流れ
採用から受診までの5つのステップ
受診の方法は2つあります。
会社が指定した医療機関で受けてもらう方法と、本人が選んだ医療機関で受けてもらう方法です。
本人に任せる場合は、項目の不足が起きやすいため、必要な11項目を書面で具体的に伝えてください。
中途採用が多い会社では、入社のたびに案内と予約が発生します。
案内の文面と提携先の医療機関を決めておくと、対応が安定します。
医療機関を選ぶときの確認点
- 法定の11項目がそろったコースがあるか
- 予約から受診までの日数と、結果が届くまでの日数
- 結果を会社あてに送ってもらえるか
- 料金と、請求書払いに対応しているか
入社日までに結果が必要な場合は、結果が出るまでの日数を先に確認してください。
結果の保存と報告
結果は、健康診断個人票を作成して5年間保存します。
定期健診と違い、労働基準監督署への結果の報告は必要ありません。
個人票の書き方は、健康診断個人票とは?で解説しています。
入社のたびに紙で管理していると、定期健診の対象者や時期の把握が難しくなります。
健康管理システムを使うと、入社時の結果と毎年の結果を1人ずつまとめて管理できます。
結果に異常の所見があった場合
異常の所見があった人については、健診の日から3か月以内に、医師の意見を聴く義務があります。
医師の意見をふまえて、必要であれば、業務の内容や労働時間を調整します。
健診の結果だけを理由に内定や採用を取り消すことは、合理的な理由がない限り認められにくいので注意してください。
健康情報の取り扱い
健診の結果は、特に配慮が必要な個人情報です。
結果を見ることが可能な担当者を限定し、紙は鍵のかかる場所に、データはアクセス権を設定して保管します。
予約の代行や結果管理のサービスを使う場合も、情報の管理体制を確認してください。
採用選考のための健康診断とは別のもの
この健診は、採用が決まった人の配置と健康管理のために行うものです。
採用するかどうかを決めるための健診ではありません。
選考の段階で一律に健診を求めることは、就職差別につながるおそれがあるとされています。
雇入時健康診断の義務を果たすための確認リスト
採用のたびに、次の点を確認すると、義務の漏れを防げます。
採用のたびに確認する項目
雇入時健康診断の義務でよくある質問
入社後いつまでに受けさせればよいですか
法律に日数の定めはありませんが、雇い入れの直前か直後に行うものとされています。
入社から1か月以内を目安に、受診を終えられるよう予約してください。
新卒採用で学校の健康診断の結果は使えますか
受診から3か月以内で、11項目がそろっていれば使えます。
学校の健診は、血液検査や心電図が含まれないことが多いため、不足する項目の追加が必要です。
短期のアルバイトにも義務はありますか
契約期間が1年未満で、更新の予定もない人は、義務の対象になりません。
ただし、深夜業などの特定業務に就く人は、6か月以上働く予定があれば対象です。
外国人の従業員も対象ですか
国籍にかかわらず、常時使用する労働者であれば義務の対象です。
すぐに退職した人の費用は請求できますか
会社に実施の義務がある健診なので、退職したことを理由に費用を請求することはできません。
本人が受診を拒んだ場合はどうしますか
従業員にも、会社が行う健診を受ける義務があります。
受診の必要性を説明し、それでも応じない場合に備えて、就業規則に受診の義務を定めておきます。
まとめ
雇入時健康診断は、常時使用する労働者を雇い入れるときに、会社が行う義務のある健診です。
条件を満たすパートやアルバイトも対象で、11項目の省略は認められていません。
3か月以内の健診結果を書面で提出してもらえば、同じ項目は省略できます。
有害な業務や深夜業に就く人には、別の健診の手配も必要です。
内定から受診、結果の保存までの流れを決めておくと、採用のたびに迷わず対応できます。