健康診断の勘定科目は福利厚生費?仕訳例と役員・人間ドックの扱い
健康診断の費用を会社で払ったとき、どの勘定科目で処理すればよいか迷う経理・総務の担当者は少なくありません。
結論からいうと、従業員の健康診断の勘定科目は「福利厚生費」が基本です。
ただし、役員だけが受けた場合や、一部の人だけ高額な人間ドックを受けた場合は、給与や役員報酬として扱う必要が出てきます。
勘定科目を誤ると、源泉徴収の漏れや、経費計上の否認につながります。
この記事では、勘定科目の選び方と仕訳例、役員・人間ドック・個人事業主の扱いを、国税庁の資料をもとに整理します。
この記事で分かること
- 健康診断の勘定科目と、福利厚生費にできる条件
- 給与や役員報酬として扱うケースと仕訳の例
- 役員、人間ドック、個人事業主の扱い
健康診断の勘定科目は福利厚生費が基本
健診費用の勘定科目は、誰の分かで変わる
福利厚生費
(事業主貸)
会社が従業員に受けさせる健康診断の費用は、福利厚生費として処理するのが一般的です。
事業者には、労働安全衛生法にもとづき、従業員に健診を受けさせる義務があります。
会社の義務として行う健診なので、その費用も会社の経費として扱えます。
福利厚生費で処理できる3つの条件
福利厚生費として処理するには、次の3つを満たしていることが目安になります。
- 対象となる従業員の全員が受けられること
- 検査の内容と金額が、健康管理のために一般的な範囲であること
- 費用を会社が負担していること
特に重要なのは「全員が受けられること」です。
国税庁の通達は、役員だけを対象にした場合や、著しく多額な場合を除き、課税しなくてよいとしています。
「35歳以上の希望者全員」のように、一定の基準で対象を決めるのは問題ありません。
福利厚生費にできるかを3つの質問で判定
判断に迷う場合は、顧問税理士か税務署に確認してください
健康診断費用の仕訳例
従業員10人分の健診費用として、110,000円(税込)を医療機関に振り込んだ場合の仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 110,000円 | 普通預金 | 110,000円 |
会社から医療機関へ直接支払うと、会社が負担したことが明確になり、経費計上の説明がしやすくなります。
立て替え払いをした場合の仕訳
従業員が窓口で11,000円を立て替え、後日、会社が現金で精算した場合の仕訳は以下のとおりです。
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 領収書を受け取った日 | 福利厚生費 11,000円 | 未払金 11,000円 |
| 精算した日 | 未払金 11,000円 | 現金 11,000円 |
立て替えの場合も、勘定科目は福利厚生費で変わりません。
領収書の宛名は会社名にしてもらい、実費をそのまま精算します。
実費と関係なく一律の金額を現金で渡すと、給与とみなされるおそれがあるので注意してください。
消費税の区分は課税仕入れ
健診の費用には、消費税がかかります。
消費税が非課税になる医療は、主に健康保険などの保険が使える診療です。
健診は保険診療ではないため、課税仕入れとして処理します。
健康診断の勘定科目が給与や役員報酬になるケース
条件を満たさない場合、会社が負担した費用は、本人への給与とみなされます。
給与になると、源泉徴収が必要になります。
| ケース | 勘定科目 | 理由 |
|---|---|---|
| 全従業員が受ける定期健診 | 福利厚生費 | 全員が対象で、内容も一般的 |
| 一定年齢以上の希望者全員の人間ドック | 福利厚生費 | 基準が明確で、該当者は誰でも受けられる |
| 役員だけが受ける人間ドック | 役員報酬 | 役員だけを対象にしている |
| 特定の社員だけの高額な検査 | 給与 | 対象が限られ、金額も多額 |
役員や一部の人だけが受ける場合
役員や特定の地位の人だけを対象に費用を負担すると、課税の問題が生じます。
この場合の費用は、役員なら役員報酬、従業員なら給与として処理します。
役員報酬とされた金額は、会社の損金にできない場合があります。
たとえば、代表取締役だけが受けた人間ドックの費用110,000円を会社が支払った場合は、次のように処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 役員報酬 | 110,000円 | 普通預金 | 110,000円 |
この金額は本人の給与として、源泉徴収の対象になります。
判断に迷うときは、決算の前に顧問税理士へ確認してください。
検査の内容が一般的な範囲を超える場合
全員が対象でも、金額が著しく多額な場合は、給与とされるおそれがあります。
宿泊をともなう豪華なプランや、健康管理と関係の薄いオプションは避けるのが無難です。
「いくらまでなら問題ない」という金額の基準は、公表されていません。
役員の健康診断の勘定科目と注意点
役員は、労働安全衛生法上の「労働者」には原則として含まれません。
そのため、役員の健診は会社の義務ではなく、任意で行うものです。
それでも、従業員と同じ条件で受ける健診なら、役員の分も福利厚生費で処理できます。
役員と従業員を同じ制度の対象にする
役員の健診費用を福利厚生費にするには、役員だけの制度にしないことが前提です。
たとえば、従業員は法定の項目だけ、役員は全員が人間ドックという設計は、説明が難しくなります。
「40歳以上は役員・従業員とも人間ドックを選べる」のように、同じ基準をあてはめます。
従業員50人・役員3人の会社なら、次のような設計が考えられます。
| 対象 | 内容 | 勘定科目 |
|---|---|---|
| 39歳以下の役員・従業員 | 年1回の定期健診 | 福利厚生費 |
| 40歳以上の役員・従業員 | 定期健診または標準的な人間ドックを選択 | 福利厚生費 |
役員と従業員で扱いを分けていないため、役員の分も同じ勘定科目で会計処理できます。
人間ドックは対象者の範囲で判断する
人間ドックの費用については、国税庁が質疑応答事例を公表しています。
事例では、次の条件を満たす場合、給与として課税する必要はないとされています。
- 一定年齢以上の希望者は、全員が検診を受けられる
- 検診を受けた人の全員について、会社が費用を負担する
判断の分かれ目は金額よりも「誰が受けられるか」です。
社内規程と証憑を残す
税務調査では、制度の実態を資料で説明できるかが問われます。
次の資料をそろえておくと、説明がしやすくなります。
税務調査に備えて残しておく3つの資料
社内規程には、少なくとも次の項目を入れておきます。
- 制度の目的(従業員と役員の健康管理)
- 対象者の範囲と年齢などの要件
- 実施の頻度(年1回など)
- 会社が負担する検査項目と金額の上限
- 支払いの方法(会社から直接払うか、立て替えて精算するか)
受診の記録を紙やExcelで管理していると、対象者全員が受けたことの確認に手間がかかります。
健康管理システムで受診状況を一元管理すると、こうした記録をすぐに出せます。
個人事業主の健康診断の勘定科目
個人事業主は、本人の分と従業員の分で扱いが分かれます。
本人の分は経費にならない
個人事業主本人の健診費用は、事業の経費にできません。
健康の管理は、事業ではなく個人の生活にかかわる支出とされるためです。
事業用の口座から支払った場合は、「事業主貸」の勘定科目で処理します。
確定申告で、事業の経費に含めないよう注意してください。
健診の費用は、医療費控除の対象にも原則として含まれません。
従業員の分は福利厚生費
従業員を雇っている場合、従業員の健診費用は法人と同じく福利厚生費で処理できます。
ただし、従業員が家族だけの場合は、経費として認められにくくなります。
家族以外の従業員と同じ条件で実施しているかが、判断のポイントです。
従業員の健診を外部のサービスにまとめて依頼した場合も、勘定科目は福利厚生費で計上します。
健康診断の費用で迷いやすい場面
再検査やオプション検査の費用
一般の定期健診で再検査になった場合、その費用を会社が負担する義務はありません。
会社が負担する場合は、対象者の全員に同じ基準をあてはめれば、福利厚生費で処理できます。
費用負担の考え方は、健康診断の再検査費用は誰が負担する?で詳しく解説しています。
健診会場までの交通費
健診を受けるための交通費は、旅費交通費で処理するのが一般的です。
通勤の経路から外れる分だけを精算するなど、社内の基準を決めておくと処理がぶれません。
健康診断の勘定科目でよくある質問
社長1人の会社の健康診断は経費になりますか
役員だけを対象にした費用の負担は、課税の問題が生じるとされています。
社長1人の会社では「全員が対象」という条件を説明しにくいため、役員報酬とされる可能性があります。
扱いは個別の事情で変わるので、顧問税理士か税務署に確認してください。
パートやアルバイトの健康診断も福利厚生費ですか
雇用形態にかかわらず、会社が受けさせる健診の費用は福利厚生費で処理できます。
健診を受けさせる義務があるパートの範囲は、労働時間などで決まります。
従業員の家族の健康診断は経費になりますか
従業員の家族は会社の業務に従事していないため、費用を会社が負担すると、従業員への給与とされるのが一般的です。
予防接種の費用も同じ勘定科目ですか
インフルエンザなどの予防接種も、従業員の全員を対象に会社が負担するなら、福利厚生費で処理するのが一般的です。
考え方は健診と同じで、対象が一部の人に限られると給与とされるおそれがあります。
まとめ
健康診断の勘定科目は、従業員の全員が受けられる一般的な内容であれば、福利厚生費です。
役員だけが受ける場合や、一部の人だけ高額な検査を受ける場合は、給与や役員報酬として扱います。
判断のポイントは「誰が受けられるか」「内容が一般的か」「記録が残っているか」の3つです。
対象者の基準を社内規程で決め、受診の記録を残しておくと、決算や税務調査のときに説明しやすくなります。